美しい女は、総合芸術である
平安時代の美女といえば、「色白で、ぽっちゃりとした下膨れの顔立ち」とされる。
色白がもてはやされたのは寝殿造のお屋敷の採光が悪かったためで、
暗がりでも顔がはっきりわかるように、ということのよう。
姫君たちは懸命に白粉を塗りました。
白粉のノリを良くするために邪魔な眉毛を抜き、唇までも塗りつぶす。
目を閉じれば鼻の穴が空いているだけの真っ白なのっぺらぼうです。
そこに、天井眉を描き、唇に小さく紅をさし、歯は鉄漿で真っ黒に染めてしまう。
夜、殿方が訪うと、マッチを擦ったほどの明るさしかない部屋の奥で色白の姫が微笑むのです。
ポロポロと、乾燥した白粉が剥がれ落ちるのを雅な扇で隠しながら・・・
現代の殿方なら悲鳴をあげそうな光景ですが、姫たちは命がけでした。
当時の白粉には鉛が含まれていて、使い続けることで皮膚は鉛毒に冒されたのです。
平安の姫に短命が多いのは、ひとつに化粧が原因と言われます。
移ろいやすい世の中の美意識に自分を合わるのは不自由なことです。
プリンストン大学のアレクサンダー・トドロフ博士(心理学)によると、人は0.03〜0.04秒というごく短い時間のうちに、相手の顔に第一印象を抱くといいます。
この傾向は、生後11ヶ月の赤ちゃんにも見られ、「信頼できない顔」よりも「信頼できる顔」の人のところへハイハイしていくのだそうです。(美意識というより生存本能の仕事でしょうか)
人の感情や人柄のようなものは、知らぬうちに私たちの顔身体から滲み出ています。
表情、仕草、視線、立ち居振る舞い、声のトーン、話し方、言葉遣い、すべてにです。
そして、その情報は、こちらに発信の意図がなくとも常に誰かが受け取っているのです。だから、
魅力的な唇のためには、優しい言葉を口にしなさい
愛らしい瞳のためには、人々の中に良いものを見出しなさい
スリムな体であるためには、飢えた人々と食べ物を分かち合いなさい
バランスの良い姿勢のためには、知識とともに歩きなさい
(略)
女性の美しさは、その人の精神に反映されるものなのです。
それは思いやりの心であり、ときとして見せる情熱であり、
その美しさは年を追うごとに磨かれていくものなのです。
サム・レヴェンソン『In One Era & out the other』
そして、もう一言。
若くて美しいことは自然のいたずら。
歳をとっても美しいことは芸術です。
エレノア・ルーズベルト
美しい女は、時間をかけて磨き上げる「総合芸術」なのです。
さ、今日も上機嫌で歳を重ねましょう。
Phoebe Snow『 good times』('74)サム・クックのカバー曲https://www.youtube.com/watch?v=s8dcYzAmOgw&start_radio=1&list=RDs8dcYzAmOgw