いつだって上機嫌

    言葉より雄弁な「ボディ・ランゲージ」 コミュニケーションが変わります

おかしな領収書

 

「領収書が、おかしなことになりまして」

そう言って、手の中の紙を見せようとしないカメラマンのK氏。

「この間の領収書より、ですか?」

「まぁ・・・」

K氏は先日も、但し書きが「本籍代」というハードボイルドな領収書を持ってきた。

実際に購入したものは「本籍」ではなく「書籍」らしいが。

・・それを上回るのか、興味が湧いた。f:id:takaiko-nijou:20190416151748j:plain

 ◉K氏のボディランゲージ

入室から冒頭のセリフまでのK氏の動きを脳内でプレイバックする。(所要時間:1秒)

相手が発する非言語の情報から事態を予測・推理することは、私の趣味であり訓練法である。

  • 姿勢 :体を小さく見せようとしていない。肩の力みもない。
  • 歩調 :足の上がり方が少ないが、オフとしては普通
  • 呼吸 :異常なし
  • 発汗 :異常なし
  • 座り方:上体は私に正体。適度に足を広げ、喉、胸も寛げている
  • 持ち物:バッグは自身の左足元に置いた。私との間に障害物は作らない
  • 飲み物:勧めると素直に飲む。2口目以降は、私をミラーリングする
  • 手元 :2つ折りにした領収書の折り目をゆっくりなぞっている

→ 危険を避けたい本能は働いていない。

 「私が清算を拒んでも大して困らないようですね。

 手書きの領収書にしたのは額面が大きいからではなく、単にKさんの癖。

 額面は3万円以下。消耗品でしょう。

 おかしなことになるとしたら宛名・額面・但し書きの3箇所ですが、、額面以外ですね。

 品代sinadaiが雛代hinadai? 雛なんて字は書けませんか・・・。問題は、宛名ですね?

「いやぁ」

ビンゴ 宛名だ。

 K氏は「いやぁ」と言う前、かすかに首を縦に振った

 

◉ボディランゲージの変化

「宛名ですね?」以降は、K氏の様子をリアルタイムで観察した。

実際に見たサインは膨大で書ききれないので、ダイナミックに変化した動作だけを挙げる。

  • 視線:左下→左横へ動き、しばらく停止
  • 表情:一瞬、上唇を鼻の方へ寄せる
  • 身振り:手の領収書から右手を離し、顎へ。その親指で唇をさする
  • 姿勢:やや前のめりになり、そして長めのアイコンタクトがくる

→なんだ、話したいのではないか。

 そして、私に同情して欲しい・認めて欲しいと思っている。

「いま、お店での会話を思い出していましたね? そして、店員さんのことをアイツめ思った。」

いやそんなことはないですが」

「いや」と言いながら頷いたのを見逃しませんよ。嫌悪の微表情も見ました。

「店員さんが何をしたんですか?」

上様でいいよ、と言ったんです私は。それなのにですね、これ」 

    領収書

ウエ・サマディー  

金額      19,440円 

但し:品代  左記正に領収しました 

→  Kさん、インドの方だったんですか? 反則です、それは読めません。f:id:takaiko-nijou:20190418162958j:plain

◉異文化コミュニケーション

その日、K氏が立ち寄った店のレジは混んでいた

レジ係2名に対して、会計を待つお客が8名ほど居たという。

そんな中でも、つい癖で手書きの領収書を頼んだK氏は「悪いことをしてしまった」と

思い、落ち着かない気持でレジカウンターを指で弾いていた

そこへ、「宛名は何とお書きしましょうか?」とレジ係の女性。

せめて早く処理できる方法をと、K氏は「上様でいいよ」と応じたそうだ。

 

「上様でいいよ」の「で」

この一語には、K氏の気持ちが込められていた。省略せずに言えばこうだ。

手間のかかる作業を頼んで悪かった。お客が並んでいるし、君は焦っているよね。

他のお客の手前、僕も気まずい。本当は会社名を書いて欲しいけど、ここは少しでも時間を

短縮しよう。だから、領収書の宛名は、上様でいいよ」

善意であった。

しかし、レジの女性は宛名を「上」と簡略化する慣習を知らなかった

K氏の発信した善意の記号は、「不思議な名前」と解読されてしまった。

また、K氏がカウンターを指で弾く動作はイライラの証と見えたろう。怖かったに違いない。

それで、彼女は不思議な名前の復唱確認を怠った

 「上」なら間違いようがないと思い込んでいるK氏も、領収書の目視確認を怠った

こうして、K氏はインド人になったのである。 

 

日本語を母国語とする人は、行間を読み合うコミュニケーションが好きだ。

すべてをあからさまに説明するなんて無粋だし、細々確認することも失礼と思う。

私もそういう嗜好を持っているが、異文化間*1では間違いの元である。

一方で、

指でトントンとテーブルを弾くようなボディランゲージは、文化も国境も越えて

イライラのサインとして通用してしまう

どちらも注意が必要である。

 

追伸:Kさん、次は普通の領収書をください。

 

西海岸のFUNKバンド、WAR。

その3rdアルバムから、発売後50秒でゴールドディスクを獲得した伝説の一曲を。

いつ聴いてもカッコイイ。

♪ WAR『CISCO KID』'72

https://www.youtube.com/watch?v=iu_YVswb3p4&list=RDG5zPqgQ67yo&index=5

*1:大人と子ども、男と女、出身地域の別、職業集団(業界)の違いなど。すべて異文化の関係である