誰も知らない魔法の時間(1)
『時間がたつのがあっという間で、浦島太郎のようです』
そんなメールを受け取って、遠い日に読んだ「カメと少女」のお話を思い出しました。
岩かげに大きなカメが眠っていました。
カメは、もう200年生きていますが、それでも、まだ100年の命が残っています。
「もう飽き飽きしたね。面白いこともないのに、時間ばっかり どっさりあって。
まったく、やりきれないよ」 と そこへ、漁師の良太の声が言いました。
「まったく、やりきれないよ。毎日忙しくて、網を繕う暇さえありやしない。
貧乏暇なしってやつでね」
<要約>安房直子作『誰も知らない時間』冒頭
生きることに飽きたカメと、時間が足りないとこぼす良太。
二人は相談して、コップ一杯の酒とカメの時間とを交換することにしました。
この日から良太の一日は25時間になったのです。
深夜12時からの1時間、この世で目覚めているのは良太ひとり、のはずでした。
さち子も、カメの時間を1時間ずつ分けてもらっていました。病気で入院したお母さんに会うために、夜毎、時間の止まった海の上を走りました。ところが、ある晩、いつもの病室にお母さんの姿がありません。母の姿を探しているうちに秘密の時間が尽き、さち子はキラキラ光りながら海へ落ちていったのでした。そうして、カメの夢に閉じ込められてしまったのです。さち子はいま、カメの夢の世界にいて、その存在を忘れられようとしています。
<要約>安房直子作『誰も知らない時間』
カメがくれた秘密の時間の中で、良太とさち子は出会いました。
やがて、良太はカメに言います。「夢の中にいる女の子、もう返してもらえないだろうか。
できないのなら俺も夢の中に入れておくれ。百年出られなくても構わないから」と。
そして、三日後の村祭りの夜、物語は「生と死」のクライマックスを迎えるのです。
ーそんなお話を思い出しました。
人生の時間は短いか?
「人生は短い。だから一日一日を無駄にするな」とはよく聞く言葉です。
また、こうも言います。「長い人生、一度や二度の失敗など何ほどのこともない」と。
いったい生の時間は短いのでしょうか、長いのでしょうか。
この問題に、古代ローマの哲学者・セネカはこう言いっています。
生は、使い方を知れば長い。
けれども、ほとんどの人はそれを知らず、いたずらに生を浪費している。
そして、多忙な人は現在を「点」で生きていて、時間の「長さ」を感じることができないのだと。
何かに忙殺される人間には何事も立派に遂行できないという事実は、誰しも認めるところなのである。(略)誰かが白髪であるからと言って、あるいは顔に皺があるからと言って、その人が長生きしたと考える理由はない。彼は長く生きたのではなく、長くいただけのことなのだ。
セネカ(前1年頃〜65年4月)『生の短さについて』第二篇
セネカは言います。
欲の虜にならず自分のために時間を使え、振り返るに値する過去を持て。
そして、温かい血の通っている間に、溌剌とした元気をもって、より良い方向に進まねばならぬと。
もしも大きなカメがいて、毎日1時間を分けてくれると言ったなら・・
私たちは「誰も知らない時間」をどう使いましょうか。
<(2)へ続く>
一日24時間の世界で頑張るあたなへ『You've Got A Friend 』Carole King(1971)
https://www.youtube.com/watch?v=I9vaEBS3l1w<歌詞対訳つき>
https://www.youtube.com/watch?v=eAR_Ff5A8Rk<オリジナルジャケット>