ダブルバインド:二重拘束
「気持ちだけでいいって言うからものすごく謝ったのに、
日本では、気持ちって お金のことだったんですね?」
これは、カフェで私と向き合っている後輩のセリフ。
そして、隣のテーブルに着いた家族の会話も聞こえてくる。
老女:S君、お祝いにゲームを買ってあげようか。
男児:やった!ゲームだって、ママいい?
母親:よかったわねぇ(と言いつつ、子供を睨みつける)
男児:・・・やっぱり、いらない
老女:あら、なあに? 子供のくせに遠慮なんて可愛くないわよ
男児:・・・
◉脅しのコミュニケーション
言語的なメッセージと非言語的なメッセージが矛盾して発せられ、どちらに従って行動しても
相手を満足させられないような状況のことをダブル・バインド(二重拘束)*1 といいます。
上のカフェの例がそれ。
1例目を少し説明します。
私の後輩は、車の運転を誤って民家の塀に傷をつけてしまった。
それを家主が「気持ちだけでいいよ」と言いながら、平身低頭謝る彼女を一向に解放しようとしない。
人生の大半をアメリカで過ごした彼女には、「気持ち = 些少の額」などというヒドゥン(隠されたメッセージ)を解読する力はありません。
彼女は、家主の男性が発する鷹揚な言語メッセージと、それとは裏腹な非言語メッセージ
(作り笑顔や胸を突き出した姿勢)との間で自分の取るべき行動がわからなくなってしまった。
とても怖い思いをしたと、彼女は言いました。
◉子どもを傷つけるダブルバインド親
こうしたダブルバインド的状況は、大人と子どもの間で作られることが多いものです。
カフェの2例目のように。
S君は、母親の仕掛けたダブルバインドの罠に気づきました。
睨みという強烈な非言語メッセージに従うことが自分の生きる道と読み、態度を決めた。
そして、まるでそれが自分の意思であるかのように「ゲームはいらない」と言いました。
本当は欲しいゲームを我慢した上に、おばあちゃんに「可愛くない」と言われてしまう。
散々です。
こうした脅しのコミュニケーションは、親子の日常にありふれていないでしょうか。
「正直に言えば怒らない」と言いつつ、怒る。
「自分で考えなさい」と言いながら、子どもの決めたことにはダメ出しばかりする。
「好きにしなさい」
「勝手にしなさい」と言いながら、子どもが従わざるを得ない状況に追い込む。
私たちは、子どもの自主性を尊重するふりをしながら、親の価値観の刷り込みを行なっていないでしょうか。
言語と非言語とで矛盾した命令を送り続けると、受け手は何を信じたらいいかわからなく
なって、ついには考えることを止めてしまう。
ダブルバインドで躾られた子どもは、親に反抗できず、
自分の気持ちや意思がわからなくなる傾向が強いと言われています。
◉企業のダブルバインド的要求
社会に出てからも、ダブルバインドの問題は付きまといます。
経団連の調査*2によれば、企業が新入社員の採用選考にあたって重視した点は「コミュニケーション能力」が16年連続で1位です。
この調査結果を、若者のコミュニケーション能力が昔よりも貧弱であることの証明と読む人がいます。
私は、そうではないと思っています。
企業の求める「コミュニケーション力」がダブルバインドに陥っている。
その環境下で、コミュニケーションに多くの問題が起きている。そういうことを示すデータでしょう。
「異なる文化・異なる価値観を持つ人に対しても自分の意見をきちんと主張できる人材が必要だ」と企業は言います。
その同じ口で、「社風をよく理解し、上下の規律を乱さない協調性がコミュニケーションの鍵なのだ」とも言います。
若い世代は、異文化対応力と同調圧力の間で迷っているのです。
企業文化や教育的背景のなかで生じているコミュニケーションの問題を、個人の能力に還元
して若者を追い詰めないで欲しい。
今シーズンの新入社員研修をすべて終えて、私Nijouはそんなことを感じています。
あとがき
少しハードな研修スケジュールをこなしたら、珍しくダウンしてしまいました。
更新できない間もサイトを訪れてくださった皆様、申し訳ありませんでした。
♪ Gloria Estefan 『Ayer』('93)
https://www.youtube.com/watch?v=tLL0aQPk12k
あのグロリア・エスティファンですが、キューバ音楽です。全曲スペイン語で祖国キューバへの想いを歌ったアルバム「Mi Tierra(ミ・ティエイラ)」からAyer。
ティンバレスかっこいい ♪ 喉が痛いのについつい上のパートを歌ってしまう(笑)